何が起こるかわからないことを楽しみ、それに付き添う

坂倉 そう考えると、最初にいる人がすごく大事ですよね。最初にいるお当番の人が、「本当に私は今日ここにいて幸せ」とまで感じなくてもいいですが(笑)。「本当は私、こんなことしている場合じゃないのに」と不本意に思っていたり、「私がスタッフとして来た人をもてなさなければならない」と役割を感じているのではなく、「ここに私はちゃんといるんです」という状態でいて欲しい。

そのためにどういうことをやっているか。芝の家は、やはりお店とはちょっと違います。お店だと、来た方と店員の役割はだいたい決まっていますよね。来る方は、メニューを頼む以外に目的にバリエーションがないので、店員は、接客をしていれば問題ありません。

けれども、芝の家の場合は、いつ誰が来るかわからないし、来た人同士が関わりを持つこともあり、どういう順番で来るかによって起こることも変わるんです。ですから、「今日は平日だから、まだお客さんが少ないときに、あれとこれと事務的な仕事を片付けよう」と、何となく計画を立ててスタートしたとしても、やろうと思っていたことはほぼできない。「私はこういうつもりだったのに」という考え方を持ち込むと、とたんに「このタイミングで来ないでよ」や「こういうことをやりたいんだけど」という気持ちが出てきてしまいます。

それなので、お当番の人とは、芝の家にいる間は、「とにかく、その日何が起こるかわからないということに付き添うのだ」とか「起こることを楽しんで、付き添っていく」というマインドの方がいいよね、という話をします。こうした気持ちをつくるために、朝、スタッフ同士で話しをする時間を取っているんです。

これは、情報共有もありますが、それよりも、今どんな気持ちでいるかという気分の問題と、体調は大丈夫なのかを聞いてシェアするようにしています。

そうすると、いろいろなことが出て来るわけですね。学生さんだったら、「明日までにレポートを出さなければいけないので、けっこうそわそわしています」ということもあって、これに不用意でいると、「本当は私、レポートを書かなければいけないのに、何でこのおじいちゃんの話聞いていなきゃいけないの」となったりするわけです。そうすると、役割として「はい、はい」と話を聞くだけになってしまい、来た方を尊重するという関係をつくることが難しくなります。

そんな時は、「じゃ、もういいよ。本当にレポートを書きたいなら、帰って書けば」あるいは「その隅で書いてもいいよ」と言います。そこまで言うと、「いや、わかりました。じゃ、5時に終わって帰ってからでもできるので、そこまではちゃんといます」という返事が返ってきます。学生もミーティングで話をすることで自分なりに整理ができ、気持ちも癒されるようです。

次のページ
振り返りの時間が、芝の家の文化をつくる