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シリーズ著者に聞く!スペシャルトーク
〈前編 みんなが主人公になれない、なれた自分でやっていく〉

「普通じゃなくたって、いいじゃないか!」をテーマに、男性学を研究する社会学者 田中俊之さんと『ヒキコモリ漂流記』の著者でありお笑いコンビ・髭男爵の山田ルイ53世さんが、現代の日本社会における男性の生きづらさを語ります。

男の人の生き方は1つしかない。学校を卒業して就職、結婚、定年まで働くという、いわゆる「普通」の生き方だ。男性に限らず女性だって「普通は…」とみんなが当たり前に感じているコトに違和感を感じている人も多いだろう。普通の生き方しかない、というのはツラい。でも、普通から逸れてしまったら、巻き返しが難しい。
そんな生きづらさから、どうしたら自由になれるのだろう。正直に自分と向き合い、無理せず真摯に物事に取り組むお二人のメッセージの中にたくさんのヒントがありました。


「普通ってツライよね」という一方、そこから逸れてしまったとき、巻き返しが難しいと思ったんです ー田中俊之

田中俊之 男爵とは、今年3月にラジオ番組でお会いしたのをきっかけに一緒にお仕事をさせていただくようになって、僕が連載しているビジネスジャーナルでも対談させていただきました。ちなみに、この連載ですが、今のところ計4回のうち3回が男爵の話題です(笑)。
今日は、男爵と二人で、テーマである「普通じゃなくていいじゃないか」ということを考えたいと思います。
僕の本で批判的に検討しているのは、男の人の生き方は1つしかない、ということです。男性には、学校を卒業して就職し、結婚して妻子を養って、定年まで働くという、いわゆる“普通”の生き方しかない。それしかないのは生きづらいんじゃないか、という話を主に展開してきました。
ただ、男爵の『ヒキコモリ漂流記』を読んで、普通から外れることの恐ろしさにも気がついたんです。それはこの一節なんですけど…。

今頃、父や母や弟は、家であったかいご飯を食べているだろうか、同世代の子達は楽しく毎日を送っているんだろうな……などと考えると、自然と涙がしみ出してくる。そして、随分「余ってしまった」自分の人生の敗戦処理など考え始めるともう駄目であった。
もう勝ち負けの決まった、終わったゲームを続けなければならない理由などないのである。

そうか、と思ったんですね。1つしかないということは、そこからズレてしまったときに「人生余ってしまった」という表現になる。すごくピンときたんです。

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山田ルイ53世
 卒業というか、進級していく過程でドロップアウトしたというのが、最初に外れてしまったところです。

田中 『ヒキコモリ漂流記』をまだ読んでいない方もいると思うので、ぜひご紹介を。

山田 あれは、中2の夏休みの前かな。僕、ウンコ漏らしたんですよ、学校行く途中で。劇的な漏らし方したもんですから、ちょっとそこから学校に行けなくなりまして、20歳手前ぐらいまでずっと引きこもりましたよという、僕の過去のことが書いてある本なんです。

田中 卒業の段階でうまくいかない人が、実は、結構いるということ気付かされたんですよね。

山田 読んでくれた方から「僕もそうです」みたいな反響をよくいただきます。

田中 就職もそうでしょうし、当然、結婚も。50歳の時点で1回も結婚していない方の割合を表す生涯未婚率は、現在、男性は20%ぐらい。同性愛者の方は日本では法律で結婚できないので、彼らにとって結婚は障害です。定年もそうで、50歳ぐらいで体を壊してしまって定年まで健康で働けない方も結構いるんです。
それで、『ヒキコモリ漂流記』を読んだり、男爵と話をして気づいたことは、「普通ってツライよね」ということがある一方で、そこから逸れてしまったときに、日本だと巻き返しが難しいと思ったんです。

山田 卒業、結婚、就職、定年などいろいろな節目で1、2年遅れただけで、結構リカバリーがしんどいということはありますものね。異端の存在になってしまうというか。

田中 留年したりすると目立つということも。

山田 僕も結局、中学は行ってないんですが、私学だったので留年のようなものがあって4年かかって出ています。僕の1学年下のヤツと授業を受けた経験があるんですが、違和感は絶大なんですね。
一般社会とお笑い界は全然違うという感覚があるかもしれませんが、僕は「なんやねん、これ」と、最近特に思ったことがあります。
留年して自分より1つ下の子たちと勉強しないといけないのだけれど、でも「アカン」と。その「アカン」という気持ちも、たぶんこれは普通ではないから「アカン」という、曖昧な理由なんす。それで、頑張って学校に行くんですが、まず、行きにくい。1つ下の子と勉強する、何か違和感ある、気まずいと、そしてなかなか行きづらくなる…という過程が、まさに、一発屋になってからテレビ局に入りづらいということと合致するんですよ。よく警備員に止められるなみないな(笑)。あの時と一緒やと思い出すんです。人生はめぐりめぐるんだなと思いました。

田中 だから、違和感なく行ける場所が多いほうが、人間は楽ですよね。

山田 そうなんです。お呼びじゃない感があると、やはりしんどいんです。

田中 それって、卒業、就職、結婚、定年に全部出てくる話かなと思って。「普通」のルートから外れてしまった人は、気軽に行ける場所がなくなってしまうことの怖さなのかなと。

山田 また、その外れてしまったというのは、実は外れていない人間から見て「外れた」というだけの話ですからね。「素敵にキラキラ生きなアカン」みたいなのは、素敵にキラキラ生きている人間の平均的な意見ですから。それ、こちらは関係ないですからね。

田中 本当にそうですね。この話は、また後ほど詳しくしたいと思います。

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