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自分が“何者か”がある程度絞れてきたら、大きく当ててやろうと思わず真面目に取り組んでいくことは、すごく大事だと思います ー田中俊之

田中 40歳、50歳になって自分の人生を真剣に考えられないのは恥ずかしいし、自分に正面から向き合って、本当はこういうことをしたいとか、こう生きたいということを真剣に論じることもいいのではないかと思うんですけれど、いかがですか?

山田 40歳くらいになると、いい具合に選択肢が省かれています。絞り込まれていますから、その分、1個1個の選択肢を熟考できるでしょうし。

田中 逆に、若いときは無限の可能性があると言われてしまうから、何でも選べる気がしてしまいます。

山田 無限にあると、結局、何も選べないですからね。だから、40歳はちょうどいい年じゃないかと思います。

田中 選択肢が絞られてきていることが、悪いことではないということですね。

山田 そうですよ。人生をかけて、いらん可能性をつぶしていったわけですから。残ったことは、できるということです。

田中 男爵が言っている言葉で、僕は「正気を保つ」というのが好きなんです。
中年ぐらいになって、人生が思う通りにならなかったときに、おかしくなってしまうというか、自分をうまく見定められなくなってしまう人がいるだろうという気がしています。
つまり、この普通の人生はつまらないから、一発、爪痕を残してやろうみたいな。訳の分からないことをやり始めて、またそこで詐欺に遭ったり、投資に失敗したり、急に脇が甘くなってしまう人がいます。

山田 思いきり決めたろ思ったら、クロスカウンター決められるみたいな(笑)。ああいうのは、だいたい決まらないんです。

田中 だから、正気を保つために男爵は、年に1回、ライブをやっている。

山田 「髭男爵」で毎年、単独ライブをやっているんですよ。
ネタ番組とかも出ていないし、賞レースも年次制限とかもありまして、出られないやつもいっぱいあるんです。ネタをかけるところもないので。毎年、新ネタを何本も作って、結構しんどいんですよ。
手伝いに来ていた後輩に「なんでそんな毎年単独をやるんですか」と言われたとき、僕は「正気を保つためや」と答えたという(笑)。

田中 自分が“何者か”というのがある程度決まってきて、男爵の場合はお笑い芸人なわけだし、僕ももうここまできたから研究者としてやっていこうと思うのですが、せっかく絞れてきているのだから、そこから変に外れて、何か大きく当ててやろうとか思わずに、まじめに取り組んでいくことはすごく大事だと思います。

山田 そんなに才能も正直、豊かではないですからね。結構しんどいんですけれど、でも、だからやっておかなアカンなということです。

田中 そうした発想は会社員として働いている人にもすごく役に立つことだと思います、例えば、今自分が思っている部署ではないところに回されているとか、思っているのと違う仕事を任されているという人は、やりたい仕事があるわけじゃないですか。いつか海外に転勤したいと思うのだったら、そういう状況の中でも英語はちゃんと勉強する、といったことです。出番がいつくるか分からないので、しっかり自分の腕を磨いておくという。
男爵の場合は、それこそ「ルネッサンスラジオ」を400回以上もやられているわけです。正気を保つという部分ですよね。

山田 確かに言われていれば、そういうのは大事かもしれないですね。まあまあ、多少は腕も上がりますよ。1ミリ、2ミリ、分からないですけれども。やらんよりはええやろ、というぐらいのね。

田中 単独ライブはスーツ着て漫才をやっているんですよね。将来、それをテレビで見ることができるかもしれない。

山田 見れないでしょうけどね(笑)。でも、それぐらいの感じで僕はやっています。ほぼほぼないやろなと思ってやっていますけど。まあでも、やっていたほうが結果、正気を保てるので、その方がいいなと思っていますね。

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時代はもう全然変わってしまって、価値観の転換に、中年は対応していかなければいけない