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民間の任意団体が河川の占有許可を得た日本初のプロジェクト「北浜テラス」

そして、トークの後半は「北浜テラス」の紹介です。「北浜テラス」は、大阪の水辺を再生しようという山根さんや泉さんをはじめとする関係者の方々の熱意が地元、大阪府や大阪市を動かし、法改正による規制緩和によって実現した画期的なプロジェクトです。

河川法では、公有地である河川敷での飲食施設等の営利利用・常時占有を許可していません。本来であれば、北浜地区に建ち並ぶビルと土佐堀川の堤防との間にある公有地の上には、テラスを設置することができないのですが、そこを、「北浜水辺協議会」を設立して大阪府の河川管理者と折衝を重ね、日本で初めて、民間の任意団体に対して占有許可が認められたのです。

山根さんは、水辺のまちづくりをしたい!と土佐堀川沿いのビルをご自身で購入した情熱の持ち主であり、当時、北浜水辺協議会の事務局長として尽力されました。


山根:
「北浜テラス」は、2008年10月と2009年の5月から7月25日まで、社会実験として仮設の川床をつくりました。

そのきっかけとなるイメージは、或る店舗が工事の為に川側に設けた足場で、畳を敷いて川床のようにした、いわばゲリラ的な実験でした。そこで、みんなで進めるにあたっても社会実験と称して仮設足場で川床を作ることにしたのです。
ちなみに、北浜の場合は、「かわゆか」と読みます。京都の貴船のように川の上に床をつくると「かわどこ」ですが、鴨川のように横から川を眺めるのは「ゆか」。ですので、北浜テラスは「かわゆか」と呼んでいます。

私もこれまでにいくつものまちづくりに携わってきましたので、地域の人たちから「聞いてへんぞ」と言われないようにすることが大切と思い、皆でローラー作戦のように土佐堀川に沿って対象となる20数軒のビルオーナーと1階店舗全てに声をかけて説明に回りました。その中で8軒、興味を持ってくれて「やりたいなー!」と言ってくれました。

しかし、実際にはビルの構造により開口部が設けられず川床が出せない、資金的に難しいといったところが出てきて、結果的に3つのビルでやってみることになりました。私自身のビルも1階の川沿いに面した部屋の窓が腰窓だったため、窓枠やビル壁面を壊して開口部を広げ、川辺に出られるようにしました。

泉:2008年の時は、常設の川床をつくることができず、一旦は壊してしまわなければなりませんでしたし、不安だらけのところをやろうというのは勇気のいったことですよね。ほんまによく3軒集まった。

山根:私の場合、仮設の川床をつくる工事よりも、窓枠を壊してサッシを新設する方にお金がかかりました(笑)。
こうして、2008年10月に仮説の川床ができて、メディアにも大変取り上げてもらい、圧倒的な数のお客さんが押し寄せてきて、川床を設けた飲食店はてんてこ舞いでした。
翌年の2009年5月から7月25日までもう一回実験的に川床を作り、その後、「北浜水辺協議会」を立ち上げて、その間並行して川床の常設を目指して検討を進めました。

泉:2009年11月までが本当に大変でしたね。当時は、民間の組織に河川空間の運営を任せようという法律が準備できておらず(*注)、企業ならまだしも、ビルオーナーとテナントやまちづくりのNPO団体などが入った任意の協議会に任せるのはいかがなものかと難色を示す人もいて。河川を管理する大阪府と協議会の間に半公的団体を間に入れた方がいいという意見があったんですよ。例えば、大阪府の外郭団体ですね。
それで、最終的には、大阪商工会議所に頼み込んだんです。水都大阪を進める上で必要なプロジェクトだと商工会議所の担当者にもご理解いただけて準備をすすめたのですが、結局、OKが出ませんでした。

山根:万が一、川床で事故があった場合、企業からの会費で運営が賄われている商工会議所が、その損害賠償金を負担するというのはリスクが大きく受けられない、というわけです。

泉:大阪の河川管理者から北浜水辺協議会が直接占用許可を受けるしかないと、崖っぷちに立たされたんです。
それで、占用許可を得るために審査会に出向き、景観に配慮したデザインルールや何かあった場合はきちんと協議会が対応するという綿密なルールを設けていることをプレゼンテーションし、彼らに判断を委ねたんです。

山根:そうしたら「今からあなたがたを審議しますので、外に出てください」と言われ、外に出たはいいが、扉が閉まったままでなかなか審議が終わらない。よっぽどこじれとったんでしょう(笑)。

泉:相当揉めていたみたいです。一部の方々から、「この協議会では責任がとられへん」という意見があったんですが、関係者の方々が大丈夫だと我々を押してくれて、ぎりぎりで許可がおりました。
結局、当日には結論がでなかったんですよね。1時間待たされて、「帰ってください」となったんですが(笑)。

山根:やばいんちゃうかなと…。

泉:北浜テラスは、日本で初めて、河川管理者が任意の協議会に直接占用許可を出したという画期的な動きになりました。今でも任意の協議会でやっているというところはないんじゃないでしょうか。

山根:「包括的占用許可」というのは、エリアが指定されていて、このエリアで川床をやりたい時は、北浜水辺協議会が対応するということです。

泉:こうした特別なプロセスを経て「北浜テラス」は実現しました。

(*注)
民間による河川空間の占用は「河川占用許可準則の特例措置」の改正(2009年1月)が行われ、北浜テラスは、この規則緩和のスキームでスタートした。その後、2011年3月の河川占用許可準則改正、2012年3月の都市・地域再生等利用区域の指定を受けて、引き続き公的役割の担い手として、北浜水辺協議会が河川占用主体として、認められ現在に至る。(『都市を変える水辺アクション』P.116より)